従来のパパニコロー染色標本では、HSILに起因する小細胞および異常細胞が、細胞背景のなかで粘液に閉じ込められることや細胞群に「隠れて」いることが珍しくありません。ThinPrepシステムにより処理した標本では、粘液および残屑が分散されるため、観察像の向上が得られます。顕微鏡による検査では、HSILの小細胞は、細胞が沈積する背景のなかに単体または小集団の形で「際立って」見えます。このような細胞は、今見ている検体をさらに重点的に観察し、診断に用いる高度異型上皮細胞群をさらに探す必要があることを知らせるものです。低倍率下でこのような小細胞が単独または集塊として認められれば、スライドのうち一部を高倍率下で「スクリーニング」するのに役立ちます。ThinPrepシステムによる分散処理は、正常な上皮細胞群を分離させるものではなく、むしろ高度異型病変の性質で接着性が弱まることによって単独の細胞が多くなるという点に注意します。このような細胞こそが目を光らせるべき「手掛かり」となるものです。
ミニチュアのカリフラワー、握りこぶし、野球のミットまたは扁桃腺を、焦点を上下させて観察することをイメージしてみてください。レーズンの表面はどのように見えるでしょう。正常な核であれば、比較的円形または楕円形に近く、表面はなめらかです。異型細胞には、凹凸、襞、割れ目、異常な隆起が見られます。このような極めてわかりやすい異常が、異形成、特にHSILの本質です。これはまさに従来の細胞学で最も忘れられがちな部分です。固定および染色によるさまざまなアーチファクトのため、従来の塗抹標本解析には限界があるからです。
この立体構造異常は、スライド上の異型細胞すべてに見られるわけではありませんが、少なくともスライド上のどこか一部の細胞にはっきりと認められるものです。細胞の核の「中」をどこまで観察できるかは、染色の質が直接的にかかわってくることは言うまでもありません。(ThinPrep®法ではいずれも、従来のパパニコロー染色標本と比較すれば容易に細胞の変化を視覚化することができますが、過染またはごくわずかでも試薬の劣化があると、この最も重要な評価に直接影響します。)また、この立体構造の異常は非対象的なものであり、時にまぎらわしい「類似細胞所見」となる核全体の溝や単なるしわとは全く異なるものです。HSILの診断は、以上のような極度の核立体構造異常の存在によって確立されます。
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HSIL
核が非対象性の立体構造異常を呈しています(平面的の映像では正確な評価が困難です)。
60倍
HSIL
核が非対象性の立体構造異常を呈しています(平面的の映像では正確な評価が困難です)。
60倍
HSIL
核膜に著明な不規則性が見られ、焦点を上下させると凹凸、割れ目、隆起を認めることができます。
60倍
HSIL
核膜に著明な不規則性が見られ、焦点を上下させると凹凸、割れ目、隆起を認めることができます。
60倍
HSIL
著明な核膜の不規則性および立体構造異常。
60倍
HSIL
著明な核膜の不規則性および立体構造異常。
60倍
N/C比は、異型度(中等度、重度、CISなど)の最も信頼性のある指標となるものです。異型度が高くれば、N/C比も高くなることが予測されます。 このN/C比の異常をHSIL診断の主な基準と考えることができます。しかし、まれに例外があり、最終的には核の変化にのみ基づいて診断することが必要です。
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HSIL
N/C比が著明に高く、異型度の指標として有用です。
60倍
HSIL
N/C比が著明に高く、異型度の指標として有用です。
60倍
HSIL
異型度が高くなるとN/C比も高くなることが予測されます。HSIL診断の主要な基準と考えることができます。
60倍
HSIL
異型度が高くなるとN/C比も高くなることが予測されます。HSIL診断の主要な基準と考えることができます。
60倍
HSIL
HSILの細胞は高いN/C比を示します。
60倍
HSIL
HSILの細胞は高いN/C比を示します。
60倍
ここまではHSILの診断に必要な基準のうち特に重要なもの(立体構造の異常およびN/C比の異常)を示しました。このほかにも、スライドに高い頻度で見られるHSILの「手掛かり」があります。次のようなものです。
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HSIL
細胞が単独で存在することが多く、従来の塗抹標本に見られるように、糸状の粘液の中に異常細胞の連なりを認めることは期待できません。このような孤立細胞は一見小さく見えることもあります。
60倍
HSIL
細胞が単独で存在することが多く、従来の塗抹標本に見られるように、糸状の粘液の中に異常細胞の連なりを認めることは期待できません。このような孤立細胞は一見小さく見えることもあります。
60倍
HSIL
このような小さな孤立細胞は、高倍率下で注意深く観察し、個々の核の性質により判定する必要があります。
20倍
HSIL
このような小さな孤立細胞は、高倍率下で注意深く観察し、個々の核の性質により判定する必要があります。
20倍
HSIL
細胞が小さな集塊および小さな敷石状配列で存在することがよくあります(約4~7個ずつが多い)。この集団は特徴的な形態をもつもので、接着性の異常に起因するものです。単に採取デバイスの吸引が原因と思われる「シート状」のものとは区別する必要があります。
60倍
HSIL
細胞が小さな集塊および小さな敷石状配列で存在することがよくあります(約4~7個ずつが多い)。この集団は特徴的な形態をもつもので、接着性の異常に起因するものです。単に採取デバイスの吸引が原因と思われる「シート状」のものとは区別する必要があります。
60倍
HSIL
核の極性の乱れ。集塊のなかに高度異型核の極性の欠如または構造の乱れが見られます。形と大きさが不揃いで、隣り合う細胞との関係性がほとんど見られません。
60倍
HSIL
核の極性の乱れ。集塊のなかに高度異型核の極性の欠如または構造の乱れが見られます。形と大きさが不揃いで、隣り合う細胞との関係性がほとんど見られません。
60倍
HSIL
「裸核」の存在。良性(得に萎縮性)の塗抹標本にも見られることがあるが、軽視することはできません。HSILのきわめて有用な指標です。
40倍
HSIL
「裸核」の存在。良性(得に萎縮性)の塗抹標本にも見られることがあるが、軽視することはできません。HSILのきわめて有用な指標です。
40倍
HSIL
きわめて目立ったLSIL細胞が複数存在。LSILからHSILへ「進展する」という概念には疑問の声もあります。これよりさらに大きくわかりやすいLSIL細胞が見られることもよくあますが、一貫性は見られません。
60倍
HSIL
きわめて目立ったLSIL細胞が複数存在。LSILからHSILへ「進展する」という概念には疑問の声もあります。これよりさらに大きくわかりやすいLSIL細胞が見られることもよくあますが、一貫性は見られません。
60倍
HSIL
単なる核の大小不同のみであれば、異型度の指標としての有用性は大幅に低くなります。
60倍
HSIL
単なる核の大小不同のみであれば、異型度の指標としての有用性は大幅に低くなります。
60倍
HSIL
核の立体構造異常を伴う場合に限り、核の大小不同が重要性をもちます。
60倍
HSIL
核の立体構造異常を伴う場合に限り、核の大小不同が重要性をもちます。
60倍
HSIL
過染色性。存在すれば有用ですが、認められないこともあります。
60倍
HSIL
過染色性。存在すれば有用ですが、認められないこともあります。
60倍
HSIL
染色質の凝集または顆粒状化。立体構造異常およびN/C比異常が存在する場合、有用な手掛かりとなります。
ただし、単独で存在することはまれです。
60倍
HSIL
染色質の凝集または顆粒状化。立体構造異常およびN/C比異常が存在する場合、有用な手掛かりとなります。
ただし、単独で存在することはまれです。
60倍
HSIL
通常核小体が目立たないか、存在しません。
炎症が同時に起こっている場合や腺頸部浸潤がある場合は核小体が認められます。60倍
HSIL
通常核小体が目立たないか、存在しません。
炎症が同時に起こっている場合や腺頸部浸潤がある場合は核小体が認められます。60倍
以上のような「手掛かり」が発見されたときは、疑いようのない明らかな核の立体構造異常のある細胞を入念に探して診断に用います。 それが発見されない限り、確信をもってHSILを診断することはできません。
扁平上皮化生は、常に異形成とは独立した現象と考えます。扁平上皮化生の存在下で異形成を認めた場合、N/C比の評価を補正する必要があります。理論上、扁平上皮化生のためもともとN/C比に異常を生じている細胞を用いることになるため、異型度の評価への有用性は低くなります。扁平上皮化生があるときは、N/C比に惑わされないようにします。
HSILの腺頸部侵襲は、ThinPrep法では独特の様相を呈し、腺由来の病変と識別することができます。腺のSILは、深い焦点深度で、ほとんどの場合シート状に認められます。細胞質には微細な空胞が見られ、一見腺の突起のように見えますが、さらに念入りに観察すると、このシート状細胞には核の基底部偏在、混みあった円柱状組成、多列化、羽毛状の縁、ロゼットのような腺への分化が認められません。このシート状細胞は一見平坦ですが、核には先に説明したようなものと同じSILの性質が見られます。シート状に配列する通常は小さな細胞で、HSILの「手掛かり」が(わずかな立体構造異常以外に)見られないため、これを発見し評価するのはきわめて困難です。この細胞が腺由来の上皮であるかどうかを判断する重要な因子が、近くに伴う細胞です。「類は友を呼ぶ」の原理を心に留めておくことです。ほとんどの場合、明らかな異形扁平上皮細胞を近くに伴っています。
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類似細胞所見
HSILの腺部浸潤
40倍
類似細胞所見
HSILの腺部浸潤
40倍
類似細胞所見
HSIL 60倍
類似細胞所見
HSIL 60倍
類似細胞所見
萎縮像
60倍
類似細胞所見
萎縮像
60倍
類似細胞所見
子宮内膜細胞
60倍
類似細胞所見
子宮内膜細胞
60倍
参考文献
- Baker JJ: Conventional and liquid-based cervicovaginal cytology: A comparison study with clinical and histologic follow-up. Diagn Cytopathol 2002;27(3):185-88.
- Bernstein SJ et al: Liquid-based cervical cytologic smear study and conventional Papanicolaou smears: A metaanalysis of prospective studies comparing cytologic diagnosis and sample adequacy. Am J Obstet Gyenecol 2001; 185:308-17.
- Diaz-Rosario LA, Kabawat SE: Performance of a fluid-based, thin-layer Papanicolaou smear method in the clinical setting of an independent laboratory and an outpatient screening population in New England. Arch Pathol Lab Med 1999: 123(9):817-21.
- Selvaggi SM: Cytologic features of high-grade squamous lesions involving endocervical glands on ThinPrep cytology. Diagn Cytopathol 2002;26(3):181-85.
- Weintraub J, Morabia A: Efficacy of a liquid-based thin layer method for cervical cancer screening in a population with a low incidence of cervical cancer. Diagn Cytopathol 200;22(1):52-9.
- Hologic, Inc. ThinPrep® 2000 System Package Insert 2001.
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