穿刺吸引細胞診

はじめに
David B. Kaminsky, MD, FIAC

細胞病理学の世界は、George Papanicolaou博士が考案、促進した子宮頚癌のスクリーニングの出現によって定義されました。穿刺吸引生検および液状細胞診の導入は、大革命をもたらしました。両者の併用は、腫瘍疾患と感染症の分子レベルの研究および周辺研究を促進する強力な診断手段となっています。いずれも、最新かつ標準の方法です。両者は近代細胞病理学の基礎を固めるもので、欠くことのできないものとなっています。

穿刺吸引細胞診[FNAB]は、その道の先駆者、Franzen、Zajicek、Espostiの管理下で、ストックホルムのKarolinskaおよびRadiumhemmetで始められました。3人が手がけた前立腺の研究は、生検データに裏付けられたもので、細胞診断の基準が組織のパターンに忠実であり、針状プローブは侵襲を最小限に抑えて組織等価情報を提供することができる現実的な診断手段であることを明らかにしました。

1930年代には、新技術の凍結切片法や剥離細胞診としのぎを削っていたFNABを導入しようというMartinの試みを、懐疑的なアメリカ医学界が退けました。細胞パターンの解釈を学ぶ病理学者や、ためらいや疑いを越えた態度を示す臨床医らが勤務するある大学付属の医療施設には、物議をかもす手技が見受けられました。

KossとFrableのような委託した病理学者の影響のもと、吸引生検法が普及し始め、アメリカ細胞病理学会は年次総会でその方法を紹介しました。Frable医師と協力し、実践研修会で吸引生検の手技、基準および組織パターンとの関係を指導し、この方法の正確性、効果および安全性を確信しました。病理医達はFNABに熱意を燃やし、最終的に研修プログラム、履修課程、一般診療に用いられるようになりました。IVR(画像診断的介入治療)を専門とする放射線科医の協力を得て、コンピュータ断層撮影、超音波法および直接透視により、視覚下で深部内臓病変に到達し、リスクを許容範囲に抑えて至適結果を得ることが保証されたとき、FNABの成功を確信しました。腫瘍に伴う苦しみが日々問題視され、それを管理する財政的責任が高まるなか、正確で費用効果が高く、侵襲を最低限に抑えたこの方法が、外来患者の環境に適応でき、治療の選択および時宜にかなった治療法への参加に貢献するものであるとして、見識ある社会によって受け入れられました。その手技は、予測可能なデータに基づき、結果に重点を置いた試みであったことから、努力を重ねて得た質の高さに十分に見合うものでした。液状細胞診を導入することにより、別の側面が得られました。針を固定液に入れることによって、検体を完全な状態で固定し、細胞分析の質およびそれを補う手技を高め、細胞を貯蔵しておくことができるようになりました。

穿刺吸引生検は、患者治療に欠くことのできない主役であり、細胞病理専門医、臨床医、IVRを専門とする放射線科医、患者および医療支払い機関との仲介者として認められるようになりました。細胞構築から組織解剖学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、培養、分子レベルの診断、標的治療および臨床場面にかかる橋渡し的存在となっています。この方法は経済的にも理にかなっており、低リスクで達成可能な結果を与えてくれます。それ自身に特徴、性格、生命があるのです。

適応
身体表面に触知可能な腫瘤があるか、X線像で不可解な病変が検出されれば、直視下または画像誘導下穿刺吸引生検の適応となります。さらに具体的には、FNABは次のような目的で実施されます。

  • 高い信頼性を備え、便宜性に優れた費用効果の高い診断法を提供する
  • 最小限の侵襲で良性疾患か悪性疾患かを区別する
  • 非切除での臨床判断を覆す
  • 転移性疾患かどうかを確認する
  • 医学的制限のある患者の組織等価情報を得る
  • 細胞構造によって、放射線療法、化学療法、免疫療法、手術または監視に患者を割り当てる
  • 培養、電子鏡検法、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、DNA画像解析およびDNAプローブのための材料を採取する?

禁忌
臨床でFNABを実施するうえでの禁忌は数少なく、出血性素因、抗凝固療法、動静脈奇形および包虫嚢胞が挙げられます。このほか、吸引の標的が胸部である場合の禁忌として、肺高血圧症、制御不能な咳嗽、進行性肺気腫および息こらえ指示に協力できない患者が挙げられます。

合併症
触知可能な腫瘤への直視下での吸引生検では、少量の出血[圧で制御]およびまれに感染を来たすことがあります。しかるべき無菌的手技がとられれば、感染はきわめてまれです。深部病変の画像誘導下吸引生検による合併症には、出血、感染および腫瘍細胞の転移[稀少事象]があるほか、胸部穿刺により、気胸、空気栓塞症および皮下気腫を来たすことがあります。

参考として、経胸経皮的肺穿刺吸引法により、針が胸膜を横切って肺実質に入った場合出血が予測されます。穿刺後の胸部写真には通常、標的の増強をみることができます。

実質内滲出の臨床的発現として、時に自然治癒性喀血がみられます。気胸は、肺実質標的に針を挿入する際、胸膜を損傷してある程度肺虚脱を来たすため、経胸郭吸引生検で併発が予測されるものです。合併症の1つと考えられる症候性気胸で、一般に肺を再拡張させるため胸腔チューブを挿入する必要があります。

症候性気胸の発症に影響を及ぼす因子として、患者の年齢、病変の大きさ、位置および深さ、穿刺回数、肺気腫の存在、処置後X線写真を用いた精査の厳密さおよび吸引の経験があげられます。

空気栓塞症は、放射線医が三方活栓を用いるか、スタイレットを抜去してから注射器を接続するわずかの間に、針に空気が入らないよう細心の注意を払うことにより防御ことができます。軟部組織に空気が流入すると皮下気腫を来たすことがあり、一帯に捻髪音が聴きとますが、これは自然治癒性のものです。

Karolinska Instituteで吸引生検を受けた多数の患者を対象にした包括的諸試験では、穿刺部位からの悪性細胞の転移はまれであり、数千件に1件の割合で偶発的に生じた逸話的事象にすぎなければ、通常は自然に播種したものと考えられる悪性度の高い腫瘍によるものです。

大半の死亡例は細針ではなく角針の使用によるもので、22ゲージ針による死亡例は実にまれです。死亡例は、角針による気管支内出血に起因するものです。

直視下での表層FNABの手技
穿刺吸引細胞診は、触知可能な腫瘤の診断的細胞評価のため、20cc注射器、22ゲージ針、必要に応じて注射器の支持器[「ガン」]を用いて、乳房、甲状腺、唾液腺、リンパ節、嚢胞および転移性腫瘍から細胞を採取する安全かつ効率的な方法です。

患者の準備は最小限に抑えられます。手順の説明、副作用、制限および予測される結果など合併症の説明、アレルギー、抗凝固療法または出血傾向の既往に関する説明、インフォームドコンセントへの署名、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)への準拠のほか、患者が女性の場合には協力者を配置するなどの倫理的配慮、標的部位の理学検査、消毒の実施などがあげられます。必要に応じて局所麻酔を用います。

標的部位を触診し消毒したあと、針を穿刺し、針の方向を数回変えながらプランジャーを引き陰圧にします。圧を再度均衡にしてから針を抜去します。吸引物を十分に採取したと判断したか、注射器のハブに材料が見えたら操作を終了します。次に、針をはずした注射器に空気を満たし、再度針と接続したとき押し出せるようにします。注射器は手で保持する場合もあれば、必要に応じて指示器を使用する場合もあります。

必要事項を記入したスライドグラスに針を乗せ、そのままの状態で片側を下げ、吸引で得た細胞をスライドグラスに押し出し液滴を作ります。2枚目のスライドグラスを用いて、表面張力で液滴を広げ、円形単分子層を作ります。スライドグラスを擦らないように垂直方向にすばやく離し、95%エタノールに直ちに浸漬します。ロマノウスキー染色用に意図的に空気乾燥させたのでなければ、次に、生食かThinPrep® Vialに針を入れて洗浄します。固形組織断片材料からセルブロックが作成することもできます。

リンパ節を吸引する場合には、Diff Quick染色用スライドおよびフローサイトメトリー用RPM輸送培地の材料を得るため、追加「穿刺」を実施します。委託した医師または医療提供者に仮診断が時宜を得て伝えられ、記録されます。

深部病変の画像誘導下FNABの手技
触知できない深部病変には、超音波、X線透視またはコンピュータ断層撮影誘導下での刺入経路を通じて、22ゲージ針で標的に到達することができます。これには通常、穿刺を実施するIVRを専門とする放射線科医が細胞病理専門医と協力して実施します。細胞病理専門医は、標本の適否を評価し、可能な場合に迅速診断を提供するほか、至適標本処理および評価を確実なものとする補助的手技が必要かどうかを決定する責任を担っています。細胞病理専門医は処置中、標本の適否を確実なものとし、診断精度を統計的に有意に高め、胸部吸引生検での「穿刺」回数および続発性気胸の発生率を減少させ、迅速に患者選別の決定を下します。放射線医は、処置への患者適応、刺入経路の計画、局所麻酔の管理、穿刺針の位置決め、検体採取および合併症出現時の治療を実施します。放射線医は、至適検体を得て適切な処理を実施することを保証しており、細胞病理専門医は、臨床問題および生検にあたる病変に関する解剖学的関係を十分に理解していることにより恩恵を受けられます。外科医は手術的アプローチを計画し、手術室の時間および勤務管理の予定を組む戦略を練ります。患者は協同チームからのアプローチを受けることができます。

FNABトレイ上の必要物品および試薬には、消毒液、針付注射器入1%キシロカイン、20cc注射器、22ゲージ可動脊髄穿刺針およびスタイレット、必要に応じ使用する注射器支持器、滅菌ガーゼ、透明スライドグラス、95%エタノール、生理食塩水、滅菌試験管、ThinPrep® Vials、10%ホルマリン瓶が挙げられます。

触知可能病変からの直視下吸引法で記載したように、インフォームドコンセントを得るなどの手順を説明したあと、放射線医は病変の位置を定め、選択した画像法を用いながら刺入経路を計画します。 甲状腺吸引には、実時間で針を誘導し、標的内での針先の位置を確認するのに超音波を用います。針先の位置の確認には静止画像を用いることがあります。

肺および腹部の病変には、精確かつ絶妙に針を誘導し、標的とする細胞を把握するのにCTスキャンがよく用いられます。

CT画像の進歩や画像世代の急進により吸引法の効率が促進されたため、肺病変にX線透視が用いられることはほとんどありません。従来の穿刺針によるX線透視下FNABは次のとおりです。

[基準]となる画像が確定したら、患者を消毒し、滅菌シーツを掛けて無菌野とします。局所麻酔をかけ、22ゲージ可動性脊髄穿刺針にスタイレットを挿入し、あらかじめ見積もった深さまで病変[胸郭および腹部病変]めがけて皮膚に穿刺するか、22ゲージ針を20cc注射器に接続し、超音波下で標的内に刺入します。針先を確認します。スタイレットを使用している場合には抜去します。針に注射器を付け、針を数回さまざまな方向に動かしながら、プランジャーを引きます。圧を均衡にしてから針を抜去します。針を取り外し、注射器に空気を注入してから針を再度接続します。スライドグラス上に針をのせ、材料を押し出して広げ、直ちに95%エタノールに浸漬します。次に、生食かThinPrep® VialまたはRPMIに入れて洗浄します。胸腹部病変およびリンパ節については一般に、スライドグラスを素早く染色し、適否、患者選別および診断を把握するまでの間、患者はそのままの状態で待ちます。甲状腺には一般に、超音波検査の結果をみてから、材料の染色および評価をするとともに、標的に3回「穿刺」する必要があります。

穿刺吸引細胞診によって得られる材料の種類
脳、眼窩、精巣および陰茎のようなあまり検討されない部位をはじめ、身体のあらゆる部位に対して、22ゲージ針で検体を採取することができます。部位によってアプローチは変わりますが、手技は一貫しています。あらゆる腫瘍のFNABにより、細胞を含んだ材料を得ることができます。この細胞が、癌、肉腫、リンパ腫、黒色腫および未分化悪性腫瘍を分類できる組織構築パターンを反映するものです。

パターン認識により迅速に特定の診断および分類ができない場合には、免疫細胞化学のような補助手技により分類の一助となる分子レベルの情報を得ることができることがあります。感染処理については、細菌にはパパニコロー染色法、ギムザ染色法、抗酸菌にはAFB染色法、真菌生物にはPASおよびGMSを用いることによって、感染の特定の病原体を単離することができます。

材料の状態は、スライドグラス上に細胞を直接置いたか、液状のThinPrep法を用いて細胞を処理したかによってわずかに変わります。直接染色では、背景に破片や血液を含むことがあり、一般に、悪性細胞の核の過染かつ濃染が認められます。ThinPrep法で細胞集塊を固定すると、背景血液が溶解され、悪性細胞の核の濃染および過染が抑えられます。甲状腺乳頭癌の特徴であるスリガラス様小胞形成をみる場合は例外であり、従来の処理による染色像と液状処理による染色像にみる細胞核の至適変化が類似しています。

直接塗抹標本

ThinPrep®

材料の適否の概念は、特定臓器部位のFNAガイドラインを通じてアメリカ細胞病理学会およびパパニコロー学会により提唱されているものです。ASCによる乳房のFNAガイドラインは開発の段階にありますが、パパニコロー学会から甲状腺および肺の臓器特異的ガイドラインが提供されています。標準化の確定に欠ける材料の適否については、一定の主観性があり、判定者の経験による差が認められます。Hologic, Inc.は、液状細胞診の技術により、採取、処理した十分な材料を構成することに関して経験を積んでいます。たとえば、材料が血液のみで嚢胞内容物から上皮組織のないフィブリンが認められる場合や、炎症のみで細胞のない甲状腺コロイドが認められる場合といった不適例を挙げています。吸引生検実施時の迅速な解釈によって、適否を即座に評価することができ、確定診断が得られれば臨床管理を促進することにつながります。

費用面の考察
費用面からFNABと従来の生検とを比較したところ、とりわけFNABを外来患者に実施する場合には大幅に費用が抑えられることは明らかです。保険医療を実施するうえで、効果的な医療費削減は生産性に左右されるため、穿刺吸引細胞診が有利になります。比較的費用のかからない手技による細胞採取は、入院の必要がなく、標的治療など手術以外の治療法に患者を割り当てるため、保険医療制度では費用面で有利であり、迅速に治療にあたることができます。病院の視点からみると、手術室を比較的効果的に運営することができます。延期するか、転院するか、時には中止することになる生検以外の手術に自由に使用することができます。病床数が限られている地域病院では、生検患者には術前にベッドを使用しないようにすれば、入院の必要な患者のベッドを確保することができます。FNABには、生検後の治療および分析を担う外科医、麻酔科医、看護師、病理技師および病理専門医は必要ありません。技術職の労働負荷を減らすことにより、患者への治療の質を偽性にすることなく、スタッフの数を減らすことができます。

吸引細胞診の実施、材料の適否および診断に対する迅速な評価、吸引物の解釈、ThinPrep法およびセルブロックのような付加標本の検査のほか、免疫細胞化学およびフローサイトメトリーによる特定数の標識については、専門的部分および技術的部分をメディケアおよび医療支払い機関が弁済します。片側性甲状腺結節のような1か所からの複数回の「穿刺」は1回の料金として支払われますが、両側性甲状腺結節のような部位が離れたFNABでは、各部位の穿刺回数に応じて支払われます。勘定簡易化のためのCPTコードを次に示します。

CPTコード 明細
10021 画像誘導を用いないFNA
88172 適否に対するFNA迅速評価
88173 FNA解釈および報告
88305 セルブロック
88173 ThinPrepサイトスピン
88180 フローサイトメトリー
87070 ルーチン培養
88305 針生検
87102 抗酸菌培養
87116 真菌培養
88342 免疫細胞化学
88312 特殊染色法

おわりに
われわれは、細胞病理学を実行に移す特権を与えられています。これは近代医学の進歩であり、細胞の形態と微小解剖学、分子レベルの診断および質の高い臨床管理とを結びつけたものです。細胞診は、癌のスクリーニングおよび診断分類、転帰を改善する駆動力であり続けます。FNABは、合併症の危険が低く、患者のニーズに広く応えるとともに、優れた安全性で侵襲を最小限に抑え、迅速性および精確性に優れ、高い費用削減効果で組織等価診断情報を提供する唯一の手段です。身体検査ではX線画像診断を補助し、分子レベルの診断、遺伝子療法および標的治療の研究にも相補的な役割を果たしています。液状細胞診への応用により、その多様性および正確性が大いに期待されます。

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